――創世――

 その日―――御剣久遠はマスターと共に…
 何処とも形容しがたい場所に居た。

 【久遠】―――今度は…火山口のようですね…。
     こんなに溶岩がどろどろのところは始めて見ますよ。
 【マスター】そりゃもう、テレビカメラでさえ入ったことないような
       秘窟だからね。とゆーか、誰も知らないよ。卑屈な秘窟ー!
 【久遠】…こんなところ普通の人間が入ったら確実に死にますね。

 地底約1000m。
 どうやってこんなところまで来たのかは不明だが、
 そんなところに居た。周囲は溶岩で覆われ、かろうじて岩肌が残っている
 部分を足場に、更に奥へ進んでいく。
 久遠のいうとおり、普通ならその尋常ではない暑さに―――いや、熱さに
 数分も持たないだろう。
 だが、この二人は身体・能力的に「普通」ではない。
 マスターにいたっては精神まで普通ではない。とにかくそんな奇妙な二人は
 ある目的のために―――、ちょっと危険を冒して、ここまで来たのだ。

 【マスター】あ、いたいた。
 【久遠】これで最後ですね。

 二人の眼前には紅い炎の翼を持った怪鳥が居た。
 ―――朱雀。
 南方を守護する四神。

 【マスター】いやー自然って凄いね。叡智だよ叡智!
 【久遠】…あなたの創世でしょう?自分で作っておいてそれはないでしょう。

 この<中央世界>は久遠が言ったとおり、マスターが創った世界でもある。
 故に、<魂魄の加護>を開放したあと、それぞれの<力>が
 自然界に戻るように設定したのもマスターのせいだし、
 そのせいでわざわざ地下1000mまで来なくてはいけなくなったのも、
 マスターのせいである。
 ―――結局のところ、簡単に言うと――――
 開放された<魂魄の加護>をもう一度得るべく、四神を倒しにやってきた、
 ということだ。ちなみに、<魂魄の加護>を得るというのは―――
 弱った四神を小さな封印球…ボールのような物に四神を閉じ込めるという事だ。
 四神が<力>そのものなのである。それを人間の魂魄と同化させることが
 ―――<魂魄の加護>となる。
 で、その四神と戦闘を行うのは―――勿論御剣久遠であるが、
 四神の能力を得るために戦うので、情報分解を引き起こす<天照>の能力を
 開放して戦うことが出来ない。
 つまり、能力封印と、マスターという足枷付で戦うのである。

 【久遠】やれやれ―――ですね。

 それでも、久遠はネクタイをぎゅ、と締めてから
 すらりと刀を抜き放って―――正眼に構えた。
 朱雀は火氣。久遠と同系列の属性であるため―――、ダメージは0.7掛け程度だろう。
 一番相性の悪い水氣属性の玄武に対しては0.5掛け程度だった。
 それに比べればまだマシな方だ。

 【マスター】頑張れ久遠君ー!!
 【久遠】マスター、気が散るので大人しくしておいてください。
     それからいつでも捕獲できる準備を。
 【マスター】わ、わかってるよ!

 いいながらマスターが虫取り網のようなものを振り回した。
 この行動に、特に意味はない。
 完全に久遠を邪魔しているマスター。
 悪意は、ない。無い分余計に腹が立つところではあるが。

 【朱雀】キシャアアアア!!!!

 朱雀の耳を劈くような鳴き声が当たりに響く。周囲の温度が
 更にあがったようだ。
 <氣>による防護がなければ立っていられないほどだろう。
 久遠はマスターを一瞥すると、一歩前へ踏み出した。

 【久遠】―――封神の剣技、見せてあげましょう。

 すぅ、と久遠が<薄く>なる。いや、残像だ。
 独特の歩法による攻撃―――封神剣・陽炎。
 瞬間に、朱雀を5回斬る。―――が、然程効いているような様子も手応えもない。
 大きく跳び退ろうとする前に朱雀の爪撃が襲い掛かる。

 【久遠】―――やはり…この程度では駄目ですか。
     まぁ、陽炎は普通の斬撃ですからね―――。

 なんて説明っぽい言い訳をしながら、爪撃を刀で受け流す。そのまま体を回転させ、
 爪を斬りとばした。

 【朱雀】シャアアア!!!

 怒ったように嘶き―――赤い羽根を羽ばたかせて宙に舞ったかと思うと、
 無数の炎の羽を久遠に向かって打ち出した。
 まるで雨のように降り注ぐ炎。

 【久遠】―――っく、さすがに朱雀…。

 火氣属性の久遠でも、平気な顔ではいられない。
 刀を地面に突き立てて周囲に防禦結界を張る。その部分以外―――ぼこぼこに地面が
 削られていく。

 【マスター】うわうわうー!!あずずずずずずづづづづっづづーーー!!
        もえーもえー!!

 そんな久遠の傍で恐るべき格好で炎の散弾をよけまくるマスター。
 多少動きが気持ち悪い。

 【マスター】こんの…鳥がああ!!!焼き鳥にしてくれる!!

 一体どうやったか分らないが―――怒ったマスター…この場合は
 逆ギレかもしれないが…、なにやら奇妙なポーズを構えると、
 頭上に巨大な炎の塊を作り出した。まるで運動会の大玉ころがしのような
 大きさの炎の球体。それを頭上に掲げている。

 【久遠】あ、マスター!それは…!!
 【マスター】うおりゃああああああああ!!!!

 その巨大な炎の塊を朱雀に向けて、円盤投げのような
 モーションから砲丸投げのような投げ方で…奇妙に投げ放った。

 【久遠】マスター、神霊クラスの相手に同じ属性の攻撃をしたら…
      大体吸収されるものだと相場が決まってるんですよ。
 【マスター】ええ?
 【久遠】私は…何故貴方がそれを知らないかが知りたい。

 久遠の言葉どおり、朱雀はその炎の塊を―――まるで飲み込むように
 吸収した。朱雀の羽―――炎の輝きが更に増していく。
 久遠に切り飛ばされた爪も再生していく――――。
 …やっぱりマスターは足手まといだった。

 【マスター】あー、あははーごめん。
 【久遠】マスター、あなたは余計な事しなくて良いですから、
      朱雀が弱ったときにその封印球で捉えて下さい。
      それまでは――私が朱雀の相手をします。
 【マスター】うう、分ったよ。ぎりぎりまでHPを減らしてね。
        さっきまでの4回戦でスペシャルボールを使い切って
        しまったからスーパーボールでなんとかして
        捕まえないといけないんだ。マスターボールは無いし。

 ポケ○ンか?

 【久遠】その辺の細かい事は任せますから―――ほら、来ますよ。
     早く隠れていて下さい。邪魔です。
 【マスター】うう、なんだか口調が丁寧な分、焔護くんの時より怖いよ。
 【久遠】内容は同じですから。ほら、危ないですよ。

 久遠の言葉どおり―――朱雀が上空から勢いをつけて急降下してきた。
 嘴による襲撃だ。マスターを遠くへ押しやって(蹴飛ばして)、
 襲撃に構える。

 【朱雀】キシャアアアアア!!!!
 【久遠】はッ!!!

 嘴を刀で受流し、地面に激突させる。そして瞬斬!
 無数の剣閃の檻が朱雀を捉える。
 だが―――敵も然るもの、久遠に爪の一撃を見舞っていた。
 久遠の肩口から血が吹き出る。どうやら前に青龍と戦闘を行った時の
 傷口と重なったようだ。

 【久遠】―――く、さすがに四神…一筋縄ではいきませんね。
 【朱雀】クアアア!!

 そのとおり、とばかりに嘶く朱雀。そして大きく宙を羽ばたく。
 かつてはその身に宿していたものであるが故に―――、
 その<力>の強大さは良く分かっているつもりだ。
 ――が、相手を賞賛してばかりでは意味がない。こちらとて
 玄武・青龍・白虎・黄龍を倒してきた。
 ぐ、と両足に力を込め―――<氣>を高めていく。
 火氣ではダメだ。再生させないほどの連撃を叩き込む以外―――
 方法は無いだろう。

 【久遠】…ですが、消滅させてはいけませんからね…。やっかいですね―――。
 【マスターの声】そーだぞー。
 【久遠】やれやれ、ですね。

 ちょっと呆れ顔を見せながら―――とん、と久遠が地面を蹴った。
 一気に朱雀まで疾駆し、間合いを詰める。

 【久遠】…多少、申し訳ないとは思うのですが―――
      彼女達を死なせる訳にはいきません。
      再び、彼女と一つとなって現世をお守りください。

 駆ける久遠の全身から清冽な氣の奔流が湧き上がる。
 超神速の氣を剣撃と共に瞬間に叩き込む封神剣究極奥義―――

 【久遠】―――陰陽界封天<おんみょうかいほうてん>。
 【朱雀】キシャアアアアアア!!!!!

 無音の衝裂が朱雀を引き裂く。劈くような朱雀の鳴き声。

 【久遠】今です、マスター。
 【マスター】よっしゃー!いけっ、スーパーボール!!!

 久遠の言葉に、隠れていたマスターが飛び出てきて、野球ボールのような大きさの
 赤と白に彩られた封印球―――<陰陽珠>を朱雀に投げた。
 今度の投げ方は―――無意味にハンマー投げのような格好だ。
 ぐるぐるぐるーと遠心力をつけて放つ。
 転瞬、その小さな陰陽珠が二つに割れたかと思うと、巨大な朱雀が
 その中に吸い込まれ、そして、割れた陰陽珠が再び一つに――
 元の球体に戻った。

 こーん、と地面に落ちる陰陽珠。…静寂が支配する。
 落ちて暫くはぴくぴくと動いていた陰陽珠だったが―――
 その動きも完全に止まった。捕獲完了。

 【マスター】やった!ホウオウゲットだぜ!!

 やっぱりこの人はどこかずれているようだ。
 まぁ、ある意味…ポケ○ンマスターといったところか。

 【久遠】ふぅ…まぁいいでしょう。
     マスター、用は済みました。帰りましょう。
     こんな暑苦しい所に長居はしたくありません。
 【マスター】そりゃそうだね。早く帰ってこの五つの宝珠を加工しないと
        いけないし―――、帰ろうか。
 【久遠】来たとき同様、空間直結ですか?
 【マスター】うん、そのとーり。ドコ○もドアー。

 マスターが手をかざすと、空間に2m弱の歪ができた。
 空間直結であるが―――特にドアのような形をしているわけではない。
 その中に入ると―――、



 次の瞬間には<中央世界センター>に居た。

 ■中央世界管理センター■
 【オペレーターたち】お帰りなさい、ご主人様。
 【マスター】ただいまー。
 【久遠】相変わらず…良く分らない挨拶を強要していますね。
      流行には敏感に、ですか。
 【マスター】そゆことー。だってご主人様だよ、ご主人様!
        なんと甘美で…それでいて甘い響き。
 【久遠】言っている意味同じですよ。

 ぼはん、とひとつ咳払いをして、マスターは今しがた入手してきた
 四神が封印された陰陽珠を取り出した。四神なのに玉五つ。
 朱雀・青龍・白虎・玄武、そして黄龍。

 【マスター】よーし、とりあえずゲットしてきた四神を
       センターの回復施設で回復させて、と。

 …ますますポケ○ンじみてくる。

 【久遠】―――それでは、今回の私の任務は終わりですね。
 【マスター】あ、うん、ごくろーさま。
       とりあえずコレで終わりだけど―――、夕方にもう一度
       ここに来てくれるかな?
 【久遠】…?まぁ、いいでしょう。了解しました。では、後ほど。
 【マスター】おつかれー。

 す、と頭を下げて久遠は管理センター管理室を出た。
 あとのことはマスターに任せておけば問題ないだろう。

 ■中央世界管理センター建物内部■
 【久遠】―――とりあえず…、肩の傷を手当してもらってから
     帰るとしましょうか。

 先ほど――朱雀に受けた傷口は完治していなかった。
 本来は自分でも治療できるのだが、自分でやるより、やってもらった方が
 効果が大きい場合がある。今回の傷はそれほど深くはないものの―――、
 治療してもらう事にした。

 【久遠】…。

 戦線に復帰して間もない為か、
 このセンター内がどういう作りになっているのか未だに良く分らない。
 というか―――マスターの気まぐれによって建物内の構造が変わったり
 しているので場所を覚えても仕方がない。
 そんなときはマスター製作の転送装置を使えばいいのだが―――
 あまりあれは好きではなかった。
 とりあえず、コツコツ―――と廊下を歩いていく。
 マスター曰く、今回の建物のイメージは学校の校舎をモチーフにしている、
 といっていた。確かに、教室のような部屋がいくつも廊下に沿って
 並んでいる。その一つに―――「保健室」と銘打たれた部屋があった。
 懐かしいな、と思いながら―――引き戸を引いてそこに入る。


 ■センター内保健室■

 【久遠】―――失礼します。

 中に入ると―――女医の格好をした―――…黒咲が居た。
 久遠を一瞥すると嬉しそうに笑った。

 【黒咲】ああ、焔…いや、久遠か。久しぶりだな。
      大体…1ヶ月ぶりくらいか。
 【久遠】ええ―――。綾さんが女医になっているとは驚きですね。
      完全に武闘派だったのに。
 【黒咲】随分な言い様だな…。これでも一連の治療はできるつもりだぞ。
     お前ほどではないがな。

 言いながら、伊達めがねをかけなおす仕草をする黒咲。
 何だかんだ言いながら格好から入っているようだ。

 【久遠】似合っていますよ。
 【黒咲】は、恥ずかしいことを言うな、焔…いや、久遠。
 【久遠】いいかげん慣れてください、綾さん。
     私が焔護地聖であった期間など――<中央世界>の時間では
     2年にも満たなかったでしょう?
 【黒咲】い、いや、とは言うものの…
      強烈なキャラクターだったからな、お前は。
      元に戻ったとは言え未だに慣れん。
 【久遠】そう―――ですか?昔はこうだったじゃないですか、綾さん。
 【黒咲】そもそも、もともとお前の方が年上なのにその言葉遣いを
      される事自体、馴染めん。
 【久遠】ははっ、綾さんらしいですね―――。
      座ってもいいですか?
 【黒咲】あ、ああ―――すまんな、座ってくれ。今日はどうした?
 【久遠】―――ちょっと、怪我をしまして。治療をお願いしたいのですよ。

 言いながら上半身裸になり,傷口を見せる。
 ある程度の応急処置をしてはいるが完全に傷口が塞がった訳ではない。
 正直な所、ちょっと深かったのだ。戦闘中に完治できるレベルではなかった。

 【黒咲】…。
 【久遠】綾さん?どうしたのです?ボーっとして。
 【黒咲】あ!、あ、い、いや、いや、なんでもない!なんでもないぞ!
     ―――ふむ…応急処置はしてあるのか。
     お前が完治できないほどとは…よっぽどだな。
 【久遠】いえ、まぁ――、治療に<氣>を回せなかったというか、
      戦闘しながらでしたし―――、今は<氣>を結構使ってしまったので
      完全には直せなかったのですよ。
 【黒咲】お前が苦戦するとは…よっぽどの相手だったんだな。
      一体なんだったんだ?
 【久遠】…まぁ、別段話す内容でもありません。私の不注意ですし。

 <魂魄の加護>をとりに行ったことは伏せておいた。
 黒咲を動揺させてしまうかもしれないからだ。

 【黒咲】そうか―――ちょっと待っていろ。確かここに霊薬が…

 ぺた、と霊薬が塗りこまれた湿布を貼り付けて、その上から包帯を
 ぐるぐる巻く。意外に丁寧な仕様に感嘆の声を上げる久遠。

 【久遠】随分手馴れてますね。
 【黒咲】まぁな。いろいろ勉強した。<魂魄の加護>を手放してから―――
     色々とな。最早戦えないこの身―――。
     ここでこうやって<世界>と関われる事に関してはマスターに
     感謝している。
 【久遠】そうですか。他の皆はどうしているのです?
 【黒咲】会ってないのか?私たちは時々会っているし―――、
      舞さんと白峰とは今も一緒に暮らしているからな。
      舞さんはOLやってみたいーとか言って就職活動して企業に勤めているぞ。
      意外…というと失礼だが、意外に上手くやっているようだ。
      白峰は中学校に通っている。まぁ、年相応の勉強もしないといけないからな。
      先代は―――前に桜舞学院に教師として入っているから、そのまま。
      ほむらもそのまま学生として桜舞学院にいる。
 【久遠】記憶は?確か魂魄乖離以後はマスターが記憶の改竄を行うとか
      そんなコトを聞きましたが。
 【黒咲】五人でタコ殴りにして止めさせた。全員記憶は残っている。

 一瞬久遠はうわあ、という表情を見せたが―――、すぐにもとの
 優雅な表情に戻した。
 シャツと上着の代えを手渡してもらって、着用する。

 【久遠】皆さんがお元気なら安心しましたよ。
     ―――さて、と。では私はそろそろ行きます。
 【黒咲】あ、―――あ、あの…

 立ち上がりかえろうとした久遠を、黒咲が消え入りそうな声で
 呼び止めた。

 【久遠】なんでしょう、綾さん?そんな「らしくない」声をだして。
 【黒咲】う、うるさいな―――…。茶化すな。
 【久遠】ははっ。―――それで、なにか御用ですか?
 【黒咲】きょ、今日の晩は…時間、あ、あるか?も、もし良かったら…
      わた、私と食事にでも―――…。

 先程までの凛々しい表情ではなく、俯いて顔を真っ赤にしてしかもその上
 シドロモドロになりもじもじしながら食事に誘う黒咲。
 そんな黒咲の肩に手を置いて、にっこりと微笑む久遠。

 【久遠】―――ええ、是非。
      また夕刻にはここに戻ってきますので―――、その時に。
 【黒咲】―――あ、ああ。す、すまんな。
 【久遠】いいえ。それでは、後ほど。

 ドアを閉めたあと、保健室の中から
 「あー!こんなに恥ずかしいとは思わなかったー!」という
 黒咲の叫び声が聞こえたとか、聞こえなかったとか。


 ■桜舞市―――御剣神社■

 御剣久遠の実家である御剣神社は<中央世界管理センター>がある
 蒼華市の隣町である桜舞市にある。
 歩いて数十分―――。
 久遠は2日ぶりに自宅に戻った。
 鳥居をくぐり、境内に入ると、留守番巫女の咲がいつもどおり
 掃除をしていた。久遠に気付くと、微笑みながらパタパタと駆け寄ってきた。

 【久遠】ただいま、咲さん。
 【咲】お帰りなさい、久遠さん。お勤めご苦労様でした。
 【久遠】いいえ、こちらこそ、留守番ご苦労様でした。
      私の留守中―――何か変わったこと、ありませんでしたか?

 そうですね、特には、と答えかけて
 ―――何かを思い出したかのように手を打った。

 【咲】そういえば―――、つい先程ですが、「朝霧沙姫」さんと仰る方が
    お見えになられました。あの方は―――…。
 【久遠】…沙姫が、ですか…?しかし彼女の記憶は…。
 【咲】あ、いえ―――、何かを思い出したというわけではなく、たまたま
    こちらにこられたようです。―――若<も>しくは、私に引かれて、かと。
 【久遠】そう、ですか―――。彼女の「存在の力」は…御琴姉さんのものを
      引き継いでいますからね。対存在である貴女と引き合ったのかも
      知れませんね…。

 二人話しながら―――社務所の方へ向かう。

 【久遠】沙姫に、何か変わった様子はありませんでしたか?
 【咲】―――迷い。戸惑い。<氣>の迷走を感じました。
    何に対しての迷いかは分かりかねますが――。
 【久遠】…分かりました。報告ありがとうございます。
 【咲】いえ、久遠さん。
    ―――お茶をお淹れしますので少しお待ちくださいね。
    美味しい羊羹がありますよ。
 【久遠】ほう、それは楽しみですね。

 社務所の縁側に腰掛ける。のどかな境内が一望できるこのポジションは
 久遠にとってベストプレイスのよーだ。

 【久遠】(そうですか、沙姫がここに―――。水姫や澪たちのことも
      気になりますね―――。)

 気になるが何も出来ない自分へのもどかしさに…、歯軋りをする久遠。
 アクエリアスゲート消滅。
 あれから3ヶ月。
 「焔護地聖」は「御剣久遠」に戻った。
 それ以来―――、水姫たちには会っていない。いや、会ってどうしようというのだ。
 今はただ、彼女たちが人として平穏な日常を送っていれば―――それで十分だ。
 …心残りでは在るが、わざわざ「こちらの世界」に引きずり込んで
 危険な目にあわせるわけにも行かない。
 ただでさえ全ゲートが消失した今、この<中央世界>は未曾有の危機に
 瀕しているのだから。
 ゲート消失以降―――中央世界は日常的に魑魅魍魎が跋扈する世界になった。
 昼間はまだしも、世界の境界が撓む刻――昼と夜の狭間―――黄昏時には
 多くの怪異が起こっている。
 政府は新たに創設された退魔機関「陰陽院」の下、各地に出没する
 妖<あやかし>を滅しているが―――それでも捌ききれないのが現状だ。
 久遠も一応、陰陽院の一員として無理やり退魔に駆り出されている。

 陰陽院―――それはマスターが<世界事象>に介入し、政府に作らせたものだ。
 取り敢えず公務員。その一員になるには、秀でた霊力を備えていないと
 なれないという、エリート霊能者で構成されている。
 ただ、世界の構成がどういうつくりになっているのか、とか、妖<あやかし>と
 呼ばれる異形のモノがどういうもので何処から来ているのか、とか
 そういったことは一切知らされていない。それぞれ色々な解釈があるが、
 異形のモノは昔から存在していた。ここに来て出現率が上がっただけのことなのだ。

 【咲】久遠さん、お待たせしました。

 ―――コト、と盆に載せられた湯のみと羊羹を切った皿を置いた。
 久遠は甘いものがすきなのだ。

 【久遠】ありがとう、咲さん。
      ―――そういえば、紫苑はどうしたのです?姿が見えないようですが。
 【咲】紫苑さんも―――退魔に。刹那さんと一緒に蒼華市へ向かわれました。
    お昼過ぎには戻ってくると仰ってたのですが…

 ―――と、境内に続く階段の方から青い頭が見えた。
 久遠の姿を確認し、駆け寄ってきている。

 【久遠】おや、うわさをすれば…ですね。
      巫女衣装のまま―――町に出ていたのですか…。
 【咲】ふふっ、そのようですね。
    ―――ではもう一つ湯のみをご用意してきますね。

 す、と立ち上がり――台所へ戻る。
 入れ替わるように、紅白の巫女衣装を着た紫苑―――御剣紫苑がやってきた。
 そのまま久遠の隣に腰掛けた。

 【紫苑】兄上。お勤めご苦労様です。いつお戻りになられたのです?
 【久遠】つい先程ですよ、紫苑。貴女もお勤めに行っていたのですね。
      ご苦労様です。
 【紫苑】いえ、私なぞ兄上に比べれば微々たるものです。
     それに―――守る事の出来る力があるならば、守らなければならない。

 なかなか優等生な返答をする紫苑。というか、もともと優等生だ。
 ちょっと男勝りな性格ではあるが。
 紫苑自身も―――久遠に引けをとらないほどの能力の持ち主だ。
 久遠の持つ霊刀<天照>と対になる<月読>を自在に操ることが出来る。
 そんなこんなで、まだ高校三年生だというのに―――陰陽院からの
 退魔の出動要請が来ている。正式な陰陽院の一員ではないが。

 【咲】―――いい心がけですね、紫苑さん。おかえりなさい。
     お茶が入りましたよ。
 【紫苑】あァ、咲さん。ただいま。
 【咲】お帰りなさい、紫苑さん。刹那さんはご一緒ではないのですか?
    いつもどおり共に帰って来るものと思っていましたが。
 【紫苑】刹那はなにやら用事があるとかで―――
     蒼華市ではぐれてからそれぞれ別行動ととっていたんだ。
     それで、私は先に戻ってきたというわけだ。
     だが…それが終わったらまたここに来るとも言っていたな。

 紫苑の友人である桐生刹那も退魔の<力>の持ち主である。
 紫苑と刹那、二人はプリキュ…もとい、いいコンビで、
 大体一緒に行動するという仲の良さだ。
 ちなみに、実家は空手道場。…一応空手道場だが、格闘技全般だ。
 刹那がいない、ということを聞いて、咲は残念そうにため息をついた。

 【咲】そうですか―――。
    それは残念ですね。この羊羹はとても美味しいのに―――。

 そんなこんなで雑談やら何やらを話していると―――
 奥の部屋のほうから三時を知らせる柱時計の音が聞こえた。


 【久遠】―――おや、もうこのような刻限ですか。
     そろそろ行くとしましょうか。
 【紫苑】む?兄上、これからまたお出かけですか?

 驚いた表情で久遠を見る紫苑。

 【久遠】ええ―――少し用事が残っていますので。
      大丈夫ですよ、紫苑。そんな心配そうな顔をしなくても。
 【紫苑】あ、いや…お気をつけて。
 【咲】いってらっしゃい。
 【久遠】ええ、―――行ってきます。



 ■中央世界管理センター―――特務室■

 【久遠】御剣久遠、入ります。

 数回のノック後、豪奢な扉を開けて―――マスター専用の部屋に入ると、
 マスターがこれまた豪奢な椅子に座って、なぜかワイングラスを持ちながら
 こちらへ振り向いた。

 【マスター】待ってたよ、久遠くん。
 【久遠】何をしているのです?ワイングラスなど持って。
     確かアルコール類は飲めないはずでは?
 【マスター】ファン○だよ、ファン○。
       っと、それはさておいて、と。

 そのワイングラスを机の上に置くと、後ろの大きな窓ガラスにかかっている
 ブラインドの間に指を差し入れて外を見る。

 【マスター】そろそろくるはずなんだけどなあ…。
 【久遠】誰がです?
 【マスター】あの五人。<魂魄の加護>が出来上がったんだよ。

 それほど時間がたっていないにもかかわらず、先ほど取ってきた
 四神の<力>を加工して<魂魄の加護>が完成したようだ。
 ―――と、ドアが開き、黒咲が入ってきた。

 【黒咲】邪魔するぞ。
      ―――なんだマスター、緊急招集とは。
 【黄坂】そーそー、こっちだってお仕事あるのよ〜。

 黒咲の後ろに、スーツ姿の黄坂がいた。スーツを着ていたらすこーしだけ
 まじめに見えるから不思議だ。
 その黄坂が久遠の姿を見て満面の笑みになった。

 【黄坂】あらあらあらーー!なぁに、くーちゃんも来てたんだ!
      お久しぶりねえ〜〜。
 【久遠】舞さん、お久しぶりですね。元気そうで何よりです

 ニコニコしていた黄坂が、少しまじめな顔をして久遠に近づいて
 耳のそばに口を寄せる。

 【黄坂】…水姫ちゃん、見かけたわよ。
 【久遠】水姫を…?
 【黄坂】―――…泣いてたわ。
     記憶が戻ったとか、そういう訳ではなさそうだったけどね…。
     私のことも分からないみたいだったし。
 【久遠】そう、ですか…。
 【黒咲】…。
 【別の女性の声】―――うむ?もう集まっておるのか?
 【久遠】おや、静奈さん。
 【青瀬】おォ、久遠か。その姿、久しぶりじゃな。
     焔護の力がなくなったと聞いておったから―――どうなったかと
     思っていたが―――。
 【久遠】ははっ。ご覧のとおりですよ。
 【マスター】どんどん集まってきたねえ。後は…ほむらちゃんと霞ちゃんか。

 マスターの言葉が終わるのと同時に―――いつもは快活な声だが
 今日はへろへろの声が聞こえてきた。

 【ほむら】な、んだ…オレ達が、最後…か…。

 最後に、ふらふらのほむらと、それを支える白峰が登場した。

 【黒咲】―――なッ、ど、どうしたんだ、ほむら…!
     <氣>の低下が…
 【ほむら】悪ぃ、三回目…使っちまった…。

 ―――三回目。
 それは<魂魄の加護>を手放してから――全力で戦える回数で、
 三回目に全力で戦ったら死んでしまう、ということだ。
 理屈はともかく、三回目の全力は<氣>の枯渇により死に至る。

 【久遠】―――ほむら、キミは…
 【ほむら】げ、師匠…!
 【久遠】答えてください、ほむら。一体何があったというのですか?
     なぜ―――禁忌である<三回目>を使ったのです?
     本来であるならば―――貴方は死んでいたということになりますよ。
 【ほむら】…そ、それは…

 全員がほむらを見る。非難ではないが―――自らを死に追いやる行動を
 よしとは思わない。
 ちょっと項垂れて横を向くほむらを庇うように―――
 白峰がほむらの前に立った。

 【白峰】…お兄様。あかお姉さまは…沙姫さんを助けるために戦ったのです。
      あかお姉さまは全てを語ろうとしませんでしたが、
      情報の断片を総合し推測すると―――、おそらく、沙姫さんは異形のモノに
      襲われていました。たまたまあかおねえさまもその場に居合わせたようで
      戦闘になったと思われます。
 【久遠】…そうなのですか?ほむら。
 【ほむら】ちぇっ、仕方ねェなあ…。
      ―――ああ、そのとーりだよッ。初めは…フツーの喧嘩に巻き込まれてたところを
      参加したンだけどよ、そいつ等が陰気に憑かれてたのか、精神を喰われてたのか…。
      沙姫をおいて逃げる訳にもいかねェし…。
 【黒咲】…しかし、よく無事だったな。
 【青瀬】いや、黒咲。それは違うじゃろう。魂魄乖離後の<氣>の枯渇は致命的―――
      何か別の理由があるのう?ほむら。
 【ほむら】…ああ、オレもよくわからねェんだけどよ、沙姫が…助けてくれたンだ。
 【久遠】沙姫が…。
 【黄坂】まぁまぁ、理由はともかく助かったから良かったじゃない。
      命が続いているなら、それだけでいいと思うわよ。
 【ほむら】ああ。―――それから、師匠。
 【久遠】なんですか、ほむら。
 【ほむら】…水鏡澪、に会ったぜ。
       オレは…直接面識がないからよくわかんねェけど、白峰が。
 【白峰】澪さん…。澪さん、なにか思い悩んでいる様子でした…。
      でも、でも―――私にはどうすることも出来なかった…!
      澪さんは、もう…私のこと―――覚えてない…!

 今度は白峰が泣きそうな顔をした。悲痛な声を上げる。
 普段はクールな白峰だが、年相応の表情を見せている。
 久遠は膝を折って白峰を抱きしめた。

 【久遠】そう、ですか―――。
     辛い思いをさせてしまいましたね、霞さん。

 無言で首を振る白峰。小さくしゃくりあげている。


 【マスター】あ、あのー…。

 珍しく控えめにマスターが口を開く。マスターにしては空気を読んでいるようだ。

 【黒咲】なんだ、マスター。
 【マスター】ちょ、ちょっと…睨まないでよ、綾ちゃん。
 【黒咲】気持ち悪い呼び方するな!
 【マスター】はううう…。
 【久遠】皆、とりあえず、ここはマスターの話を聞いて下さい。
      重要な話ですから。―――ほら、マスター。

 ちょっと涙ぐんでいるマスターを、黒咲たち5人の前に押しやる。

 【ほむら】重要ってなンだよ?
 【マスター】キミたちには再び<魂魄の加護>を得てもらう。
 【黄坂】えええ?そんなことが出来るの?
 【ほむら】―――まじかよ!?

 驚愕の黄坂。いや、黄坂だけでなく、黒咲も青瀬も驚いている。
 白峰は…特に表情は変わっていない。
 持ち前の推察力で既に看破していたのだろうか。

 【マスター】ここに、それぞれ<四神の力>がある。
        ―――これを宿すか、宿さないかは…キミたちの自由だ。

 机の上に、ごろんと五つの宝珠を置いた。
 それぞれから青やら白やら赤やら黒やら黄色の輝きが漏れ出ている。
 もれ出ているというか―――<氣>が湧き上がっている。

 【黒咲】―――聞くまでもない。

 黒の宝珠を、黒咲が掴んだ。

 【青瀬】そうじゃな。まだ当分若い姿のままでいたいしのう。

 青の宝珠を、青瀬が掴んだ。

 【黄坂】静さん、それって動機が不純じゃない〜?

 黄の宝珠を、黄坂が掴んだ。

 【ほむら】オレ、これがなかったら…多分この先100回くらい死ぬしな。

 赤の宝珠を、ほむらが掴んだ。

 【白峰】皆を守れるなら―――私は戦います。

 白の宝珠を、白峰が掴んだ。

 【マスター】…キミたちの覚悟、確かに受け取った。
       中には変な理由もあったけど。
       では―――キミたちを新たな守護者として―――
       あれ?新たな、って、前もやってたし、担当同じだから
       新たな、じゃないよね。古たな?古田兼任監督?野球は関係ないいだろ!
 【黒咲】何かするなら早くしろッ。
 【久遠】一人ボケツッコミ、ですか。
 【マスター】ま、まあとにかく新たな守護者として任命する!!
       その名も!!!
 【青瀬】訳の分からぬ命名はもういらないのではないか?
 【マスター】そ、そお?残念…。

 瞬間、それぞれが持っていた宝珠が輝きを増し―――
 部屋いっぱいに眩いばかりに光り煌く。

 【黒咲】―――ッ!!
 【白峰】…これは…ッ。
 【青瀬】うむ―――。
 【ほむら】なんか―――懐かしい感じだぜッ。
 【黄坂】お帰り、って感じね。

 その眩い光が収まる頃には―――、それぞれが持っていた宝珠は消えていた。

 【久遠】ふぅ。苦労して回収に行ったかいがありましたね、マスター。
      神霊クラスは手ごわいから…。
      こうやって皆に再び戻ったこと、嬉しく思いますよ。
 【マスター】そーだね。
 【黒咲】―――お、お前が…四神と戦って―――<加護>を得てくれたのか…。
     そ、そうか、あの傷…。

 黒咲の言葉に、にっこりと微笑む久遠。黒咲は思わず走り寄り、抱きついた。
 らしくもなく、震えている。

 【黒咲】すまない―――。私たちのために…。
 【久遠】謝らないでください、綾さん。
      ―――それに、本当に大変なのは、これから。
      私も共に戦いますので―――。
 【マスター】あ、キミは別。
 【久遠】――え?
 【黒咲】―――えっ?
 【青瀬】…む?
 【黄坂】―――別?
 【ほむら】別って何だよ?
 【白峰】…まさか…。

 ブラインドの隙間から夕日が指しこむ。
 静かに―――時計が時を刻む。

 時刻は、午後5時。

 【マスター】本来あの<力>…<焔護地聖>は私の<力>片割れ。
        つまり―――私が頑張れば、何とかなると思うんだよね。
 【久遠】それは―――
 【黒咲】…まさか。

 マスターが奇妙なポーズをとる。太極拳のような動きをし―――、
 掌を胸の前で合わせて、ゆっくりと引き離す。
 ―――と、紅い光の玉が現れた。

 【マスター】さあ、久遠くん。今度はキミの覚悟、見せ―――ああ!

 マスターが言い終わる前に、久遠はその紅い玉を手に取った。

 【久遠】護る力があるなら―――。
      護ることが出来る者であるなら―――。
      私にその資格があるなら―――。
      何度でも。

 潮が引くように―――久遠の青い髪の色が赤く染まっていく。
 瞳の色が―――蒼から紅に。
 御剣久遠から、焔護地聖に。

 変わっていく。

 【焔護】また―――この姿になるとはな―――何の因果か。
 【マスター】すごいなー、いきなり口調が変わったよ。
 【焔護】ふん。
 【マスター】また頑張ってもらうよ、焔護くん。
 【焔護】…ああ。

 遠くを見つめる焔護。ふ、と視線をマスターに戻す。

 【マスター】独りで管理者は…寂しいかい?
 【焔護】―――過去は戻らん。つまらん気遣いは無用だ。
 【黄坂】…えんちゃん…。

 そ、っと黄坂が焔護の左腕を、右腕を黒咲が抱きしめた。
 大丈夫だ―――と、焔護が口を開こうとした時、
 突如として、警戒警報<コーションコール>が鳴り響いた。

 【マスター】―――一体何事ですのん!?
 【オペレーターの声】わ、分りません!!!現在原因究明中です!
 【マスター】キミたちは不測の事態に備えてこの部屋に残って頂戴。
        焔護くんは私と一緒に!
 【黒咲】分った。待機しておく。
 【焔護】…マスター。
 【マスター】うん、いくよ。

 瞬間、マスターと焔護の姿が消え―――、二人はオペレーションルームにいた。
 眼前の巨大スクリーンが警告画面を発している。

 【マスター】一体何事だというんですか?
 【オペレーター】不明です!外部からの不正改竄要求です…!拒否<キャンセル>できません!!
          世界構成ロジックが信じられない速度で書き換えられています!
 【マスター】…なんだって!?

 驚愕の表情を見せるマスター。この「世界」はマスターが創り出した世界だ。
 その世界の情報が何者かによって書き換えられている。
 驚愕するのも無理は無い。

 【オペレーター】きゃっ!?

 オペレーターの見ている画面の一つが赤に染まっていく。
 別に血を流している訳ではない。
 表示されている既存の文字が勝手に別の赤い文字に書き換えられて行っている。

 【焔護】ハッキングとかそういう類か?
 【マスター】そんな簡単にハッキングされるような脆弱なセキュリティじゃ
        ないよ。外側からの攻撃…不正アクセスには対しては
        ほぼ100%で防げるはずだ。
 【焔護】外…じゃなかったら内側じゃないのか?
 【マスター】内側…?そんなアホな。それこそ無理な話だよ。
 【オペレーター】置換言語特定完了しました!
          ―――こ、こんな…!?一定の単語で書き換え…なんて!?
          4つの文字で…
 【マスター】4つ?4つの単語でプログラムが書き換えられているってこと?
 【オペレーター】違います、4文字なんです!たった4つの文字でプログラムが
          侵食されていってるんです!!
 【マスター】4文字・・・?
 【オペレーター】MOS<メインオペレーションシステム>のプログラムが強制
         置換されていきます!各プログラムブロックのパージが間に合わない…!!
         早すぎる!―――連続した単語だから…!?
 【オペレーター】特異点判明しました!生体反応!詳細―――データと合致するものが
          在りません!
 【マスター】異分子…!?生体反応ってことは、生身の人間が
        この事象をひきおこしているってこと!?そんなバカな…
 【オペレーター】不明言語プログラムコード、モニターに出します!!

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 【焔護】―――文字化け…?しているぞ?
 【オペレーター】移送空間システム置換されていきます!!
          こんな…!!早すぎる!!こんなことって―――…!!
         ―――マスター!!
 【オペレーター】特異点―――アンノウンからの空間リンク形成開始、
          高速に擬似無限回廊が連結していきます!!
 【オペレーター】時流事象の逆転現象確認!そんな―――時間概念の空疎化…!?
           時間が…!アンノウンの周囲空間時流が―――完全に逆転しました!
           アンノウン、なおも高速で移動中!
 【マスター】過去に時間がさかのぼって―――その中で未来に向かって移動している…
        ということは―――瞬間移動級ってことか…!
 【オペレーター】MOS<メインオペレーションシステム>の空間制御にダイレクトアクセス確認!
          被座標軸が固着、擬似無限回廊…形成が完了しました―――!
          空間座標軸NS187・IC198からの接続確認!

 最早悲鳴に近いオペレーターの声。それもそのはず、
 本来ありえない「世界」構成事象への介入(ハッキング)及び、更にありえない―――
 この偽装空間<中央世界管理センター>への空間直結、しかも瞬間移動並の連結。
 何者かが瞬間移動で<ここ>に来ようとしている。

 【オペレーター】マスター!!!強制リンクが繋がります!!
 【マスター】どこにッ!?
 【オペレーター】ここッ!!!ここにですッ!!!!
 【オペレーター】不明言語プログラムデコード完了、モニターに出します!

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 【焔護】―――ッ!?


 ―――ガチャ!!!

 勢い良く開けられた扉の向こうに―――







 荒い息を吐いた水姫が立っていた。