「腕の呪印が疼く…」
夕霧は右腕に施されている印を押さえつけた。


第六幕 異変胎動


<焔護の回想>
■アクエリアスゲート・ホール■

その日は、巫女衣装だった。



「あれっ?その巫女衣装って、ボクがお正月に着たやつ?」

水姫さんが写真を見て尋ねました。
私もこの衣装を着た水姫さんを見たことあるような気がします。

「ま、そんなところだ」
「ふーん。それで、これを着た夕霧さんはどうしたの?」
「いきなり襲い掛かってきた」



<焔護の回想>
■アクエリアスゲート・ホール■

「よ・・・」
「やああああっ!!!!」

焔護が衣装の批評をするまもなく、夕霧は殴りかかった。かなり殺気立っている。
その暴れっぷりとくれば、もう少しでポロリして…見えそうなくらいだ。

「せいっ、やっ!!」
「いきなり襲い掛かるとは…けだものか、オマエは」
「貴様に言われる筋合いはない!!」

蹴り、掌、拳と絶妙なコンビネーションで焔護に襲い掛かる。
焔護はそれを受け、或いは流し、かわす。

「おおっ、いつもより動きがいいな」
「お前にほめられてもあまり嬉しくないっ!」

言いながら夕霧が両手に雷球を作り、焔護に放つ。

行けっ、雷球!!!


青白い電撃の弾が焔護を襲う。

「発電所いらずだな。
 (オレの領域でここまで<能力>を引き出せるとは…。)」

とかなんとか言いながら、それでも焔護は超スピードで避けた。
超スピードはどれくらいの速さなのかは分からない。
ただ、夕霧の目に留まらないくらいの速さだ。

「なっ…消え――」
「月並みだが、後ろだ」
「くっ!!」

無理な体勢から、それでも体重をのせた夕霧の拳が焔護を襲う。
焔護はそれをしゃがんで避け、足払いで夕霧を転ばせた。
そのまま朱を踏みつけ、起きられないようにする。
そのまま、手刀を夕霧の首元に突きつけた。

「―――チェック・メイトだ」
「…くっ」
「何かあったのか?コンビネーションもいつもよりスムーズだ」
「…お前に対する怒りがそうさせている、と思えんか?」
「なるほど」
そもそもなんだ、この衣装は…?


焔護が差し出した手を取り、立ち上がりながら尋ねる。

「それは神事を行うものが着る服だ」
「こ…こんなに胸元をはだけた衣装でかっ!?」
「あ、それは俺の趣味だ」
「お前はそんなんばっかりだな!この変態が!!!」
「――ほめ言葉ととっておこう」
「褒めてなどいないっ!!そもそも…――くっ!?」

突如苦しそうな表情になり、右の二の腕を抑えた。

「どうした、夕霧。腹痛か?」
「…腕に腹はないっ!」
「じゃあなんだ?その抑えている腕の位置…例の<変な印>があるところだろう?」
「お、お前には関係ないっ!!!」
「心配してやっているのに」

荒い息を抑え、なんとか表情を元に戻す。腕を組んで眺めていた焔護がボソッと言った。

「…呪印だな」



「――呪印?」

水姫さんが尋ねました。

「ああ、呪印だ。施した者のコマンドを刷り込んだりする呪いの一種だ」
「ふえ〜、なんだか難しそうだね」
「そうだな。説明することすら面倒なくらいな」

そんな恐ろしいものがあるなんて驚きです。

「ちなみに、澪。お前もここに来た時には額に呪印に施してあった」
「えっ!?」

つい、驚いてしまいました。

「そんなのあったっけ?」
「見たことある術式だったから解呪できたがな」
そうだったんですか…
「おそらく、ジェミニゲートで付けられたんだろうな、あの変態管理者に」

私にはその「ジェミニゲート」のこともそれ以前の記憶もありませんでした。
ですが変態野郎と聞いて、何かが私の頭の中で引っかかりました。
言葉に出せない恐怖が全身に走り、後頭部に寒気が走りました。

「まあ、その話は置いといて」

一瞬震えた私を見て、焔護さんがさり気無く話題を終了してくださいました。
意外に優しいです。

「意外とは失礼だな」

口には出していないのに、ずばり言い当てられました。驚きです。

「今となっては、<それ>が何の呪術が分かるが、当時のワシは未熟だった」
「…?」
「その呪印の意味する本質を見抜けなかった」