思えば、いつから<これ>はついていたのだろうか?いつから<あの場所>に居たのだろうか?
…思い出せない。頭が、痛くなる。


第八幕 激震―前編―


<焔護の回想>
■アクエリアスゲート・ホール■

「あ、あの…焔護…」

自室から顔だけをだして夕霧が焔護を呼んだ。

「なんだ?」
「こ、これは…勘弁してほしい…」
「何言ってんだ。ほら、出てこいって。そのほうが動きやすいだろう?」

そんなこんなで自室から引っ張り出された夕霧は
水着だった。

しかも黒。
黒は夕霧の好きな色なのだが、この場合体を隠す部分が少なすぎた。
内股でもじもじ歩く夕霧を、焔護は楽しく眺めていた。変質者だ。

「ほら、動きやすいだろう?さあ、いつものようにかかってこい」
「え、焔護、も、もう許…は、恥ずかしいんだ…!!」
「だから何を言ってるんだ。別に誰かに見られているわけでもないだろう?」
「い、いや、まあ、そ、その通りなのだが…っ!!」

歯切れの悪い夕霧。完全に羞恥心で動揺していた。



…すう、と焔護の双眸が細まった。

「では、一つ尋ねよう」

いつものふざけた雰囲気とは違う様子でゆっくりと夕霧に近づく。

「俺を暗殺するように仕向けたのは何処のどいつだ?」
「―――!!」
「ま、羞恥心だけで口を割るようなお前じゃないとは思うが…、話してくれないか?」
「・・・。」
「…その呪印、なんとかしてやりたい」



「うわっ!珍しい〜〜!!」
「水姫、お前時々失礼なこと言うよな」
「きゃうん!」

焔護さんが水姫さんの頭を叩きました。水姫さんが大袈裟によろめきました。
でも、焔護さんは本当は優しいんです。…きっと。



<焔護の回想>
■アクエリアスゲート・ホール■

「…私が聞いていた焔護地聖は血も涙も無い冷血漢と聞いていたがな」
「誰だそんな失礼なことを言っている奴は」
「ふっ…」

へなへなとその場に座り込む。そして、焔護を見上げた。


「…お前は…私を助けようとしているのか?」
「…ま、たまにはボランティアだ。一期一会とか、袖触れ合うも他生の縁、ってやつだ」
「ふふ…っ…。――う…っく…」
「呪印が痛むのか?見せてみろ」

夕霧の右腕をとって呪印を眺め、そっとなぞる。呪印が少し、赤く光った。

「…ダメだな、これだけではわからん。あの人なら分かるはずだが…」

分かる呪印構成を分解していくつか解呪にかかるが、殆ど効果が無かった。

「…え、焔護、すこし私の話を聞け」
「ん?ああ」

何かを決心したような神妙な顔つきで焔護を見た。

「恐らく私がこの言葉を発するのは一度きりだ…。よく聞いておけ」
「どういう…いみだ?」
「聞いたら私のそばからすぐにはなれろ。そして、…私を殺せ。…いいな」
「――だからどういう意味だと聞いているっ!!」
「・・・。…それから、この数日間、それなりに楽しかった
「なに?」

夕霧の言葉は、最後は小さすぎて聞き取れなかった。
伏せていた目を、顔を上げ、焔護と向き合う。

「私をここへ送り込んだ組織…それは」

夕霧を覆う異質の妖気が増大していく。

次元移動組織プレアデス



何処かで何かが崩れる音が聞こえたような気がした。