第十三幕 Central ■アクエリアスゲート 応接間■ 「そうか、それで報告の為に中央に来ていたのか…」 「ワシが中央世界にいたのを知っていたのか?」 「ああ、マスターから聞いた。…で、その後はどうなったんだ?」 焔護は少し冷たくなった紅茶(3杯目)をのどに流し込んだ。 「とりあえず、夕霧を別次元に固めてから、中央世界に行った…。 この先の話は無駄に長くて中身は無いぞ?」 「…構わない」 <焔護の回想> ■中央世界管理機構――管理室■ 「やあ、焔護。待っていたよ」 無限回廊を中央世界に接続し、次元を渡って中央世界についた焔護は 中央管理機構の巨大ビルに赴いた。 尤も、表向きは何処にでもある会社のビルであるが。 その最上階にある管理室に入ると、<マスター>と呼ばれる人物が焔護を待ち受けていた。 「何があったんだい?…というか、大体の予測はついているけどね」 「―――何?」 「ゲートに侵入者があって、命を狙われていたんじゃないかい」 多少驚きを隠せない焔護。 「なぜ分かった?」 「…キミが初めてじゃないんだ。実は他のゲートにも刺客が送られていてね」 マスターが指で四角を作りウインクする。…が、出来ずに両目を瞑ってしまった。 刺客違いという事に気づいていたがあえて焔護はツッコまなかった。 「…どういうことだ?」 「さっきも言ったけど、黄道十二門<ゾディアックトゥエルブゲート>に刺客が放たれたんだ」 「全ゲートにか」 「うん。で、ここにも犯行声明文のようなものが送られてきた。送り主は次元移動組織プレアデス」 「…む」 「おや、聞いたことあるのかい?」 その名につい反応してしまう焔護。それを見逃さずにマスターは尋ねた。 少し逡巡した後、焔護が口を開いた。 「・・・ああ、さっきあなたが言ってた刺客からな」 「…刺客の名前は?」 「夕霧沙姫」 「その名前、聞いたことあるね。…確か、黒衣の悪魔…とかなんとか笑えるあだ名だった様な気が」 確かに笑える、と焔護は思った。崩した表情を元に戻す。 「その通りだ。―――で、その犯行声明とやらの内容は?」 「世界征服」 「…アホか?」 「アホだね」 「今時、悪役で世界征服なんぞ言っている輩がいるとはな…脳にカビでも生えているんじゃないのか?」 「まあ、悪役ってのはそういうものだよ。変なスケールでものを考える、ってことさ。」 「身の程を知るべきだな」 「同感だね―――で、そのプレアデスの首謀者が、岩山田山男という人物だ」 「岩山田山男…聞いたことがあるな。ゲート管理者選抜試験のときに居たやつだ」 「そうだね。でも彼は選抜から外したんだ。…精神に問題があったからね」 とりあえずひとしきり話すと、マスターは机に腰掛けた。 「それで、そっち…ゲートにきた刺客を、どうしたの?」 「…その刺客を捕縛した。だが妙な呪印が起動してこっちが危なくなった。…これがその呪印式だ」 「めずらしいね、キミが苦戦するとは。何か理由でもあったのかい?」 夕霧につけられた呪印のデータを受け取り、画面に表示しながら焔護に尋ねる。 「いや…、生かしたままおきたかったからな」 「なんで?」 「あーいうことやこーいうことをする予定だったからな。…そういう訳で次元介入した」 「まー構わないけどね、その程度なら」 「…済まんな」 一言いうと、焔護はくるりと背を向けて部屋から出ようとした。 「どこへいくんだい?」 「―――そのプレアデスとか言うところに行く。 オレにちょっかい出しやがったこと、大後悔させてやる」 「うわー、久しぶりに怒ってるね。…こちらからも既に手を打っているが…」 怪訝な表情でマスターを見る。 「手を打つ?…なぜだ?よほどのことが無い限り中央は動かないのではないのか?」 「実はここ数年、中央世界から拉致された人間が多数いるんだ」 「ほう」 「――で、調べて行き着いた結果が、プレアデスだったという訳さ」 「中央も無視できない存在、という事か」 「そゆこと。―――キミもプレアデスへ行くならこれを持っていきなよ」 マスターからチップを渡される。 「なんだ?」 「現在のプレアデスのいる座標空間さ。無限回廊をそこにつなげばいけるはず」 「…恩に着る」 「おや、素直だね。またまた珍しいことで」 「・・・ふん」 「キミなら大丈夫だと思うけど、気をつけてね。まあ、固着してしまいさえすれば問題ないけどが…」 「―――了解した」 それから、とマスターは言いながら焔護の耳元で囁いた。 「奪われた<13番目の璧(へき)>の可能性がある。これ以上悪用されないように、頼むよ」 「オフィウクスのディスクか。まあ、…そうだろうな。生身で次元生成なんぞ出来ん」 「そーいうことだね。…ところで―――妹さんには会わないの?」 焔護が考えるそぶりをする。 「――そうだな。せっかく中央世界<こっち>に帰ってきたしな…寄ってみるか」 「私もいくよ」 ■市内 神社■ 「…変わっていないな」 焔護が神社内に足を踏み入れると、境内の奥から箒を持った巫女が出てきた。 微笑みながらゆっくりと焔護に近づく。 「お客様ですか?…あら?」 にっこりと微笑む巫女 「あらあらまあまあ。お久しぶりですわね。…今は、焔護さんでしたね」 「久しぶりだな。留守番巫女ご苦労。――近くに来たから寄ったが…あいつは?」 「あの方はまだ学生ですわ。学校に行ってらっしゃいますよ。…今、お茶をお淹れしますわ」 「いや、構わない。これから用事があるのでな」 焔護は建物に入ろうとする巫女を呼び止めた。 「あいつに…妹によろしく伝えてくれ。―――じゃあな」 「…はい、お気をつけて」 深々と頭を下げて焔護を見送る。 結局巫女は焔護が何しに来たのか分からなかったが、忙しいのだろう、と思った。 ■市内 街角■ 「…待たせたな。行こう」 「焔護、もういいのかい?久しぶりの実家なのに。なかなか帰省出来ないじゃないか」 「ああ、いいんだ」 「まあ、…私がゲート管理担当にしたからこんな事はいえないんだけどねぇ」 「構わないさ。――――っ!?」 その時、息を切らせた青い髪の少女が角から飛び出して来た。 焔護にぶつかりそうになり、咄嗟に避けた。 「――くッ!?す、すまないッ…!!」 「…いや」 焔護が道を空けると、そのまま少女は必死の形相で走り去った。 いつの間にか電柱の影に隠れていたマスターが苦笑しながら姿を現す。 「キミの妹さんにいつも酷い目に遭ってるからちょっと苦手でね。 …それにしても、キミだと気づかなかったねえ」 「ふっ。…まあ、容姿が違うからな」 「――――さあ、ゲートまで送ってあげよう」 「ああ、頼む」 マスターの手が空を撫でると、焔護がアクエリアスゲートに一瞬で転送された。 「頑張りなよ」 |