第十六幕 Unification ■次元移動組織プレアデス本艦・超次元要塞サーペンタリウス■ 焔護が振り返ると、そこには見知った顔があった。 「―――お前か」 「焔護、お前は何でそう無茶をするんだ? 我々、中央世界守護天使<セントラルガーディアンエンジェル>に任せればよいものを」 「いつ聞いても恥ずかしい名前だ。ついでに長い」 「私に文句を言うな。マスターのセンスの問題だろう」 その組織のリーダーの女――黒咲綾――は多少苦笑しながら近づいてきた。 「黒咲、他の奴らも来てるのか?」 「今回ここに来たのは三人だけだ。―――そろそろくる」 「三人?…お前の他に…後二人は誰だ?」 「…ちょうど来たみたいだな」 遠くから黄色い声が一つだけ聞こえる。なにやら戯れている感じ… 「黄坂か」 黄坂舞―――焔護は彼女のあの妙なテンションにはいつも困らされていた。 周囲を訳の分からない方向へ振り回すスペシャリストだ。 「もう一人居る…白峰も一緒に来たみたいだな。 あの二人も会うのは久しぶりだから…じゃれているのだろう」 その二人がこちらに気付いた。 黄坂が手を振りながらこちらに向かって走ってくる。 「あーっ、焔ちゃーーん!!げーんきしてたーーーって、ぶーーー!?」 そして、足をもつらせて盛大に顔面から転ぶ、黄坂舞。 その横を何事もなかったように白峰霞が武具である大鎌を空中に浮かばせながら歩いて来た。 「お久しぶりです、お兄様」 「ああ」 焔護に対し、丁寧にぺこりとお辞儀をする白峰。 血縁関係ではないが、何処で何を覚えたのか、焔護を<お兄様>と呼ぶ。 理由は、流行っているからだそうだ。 「こらーっ、ひっどいじゃないのよ!わたしには目もくれず?」 「ああ、悪いな、黄坂。久しぶりだ」 カエルのように倒れていた黄坂が起き上がり、恐ろしい剣幕で近寄ってきたので 多少引き気味に焔護が答えると、満面の笑みになった。 「どーしてスーツ着てるの?」 「ちょっと<中央>に出頭していたからな。…で、後の二人…爆発娘とバアさんは来てないのか?」 「焔護、お前あの二人に殺されるぞ。二人とも別命で<中央世界>に行った」 「そうか」 「そんな事より、マスターより預かりものがある」 「何だ、一体」 「例の呪印の解呪式だ。時間がないから5分で覚えくてれ」 10枚ほどのレポート用紙を手渡される。目を通すと神代文字<ヒエログリフ>で 描かれた呪術用プログラムが記してあった。 「ふむ…なるほど」 すべてに目を通し、レポート用紙を黒咲に返す。 「もういいのか?」 「ああ。言われてみれば単純なプログラムだ。…暗号化されているが一定の法則がある」 「ややこしいわねえ」 黄坂がしかめっ面を作った。 その横で焔護を眺めていた白峰が口を開いた。 「――お兄様、その刀…」 「なっ…焔護、お前それは御剣の至宝<天照>か!?」 「ああ」 驚いたように黒咲が声を上げた。 退魔封神の霊剣。焔護がこれを持ち出す事はあまりない。 「ありゃー、焔護ちゃんホンキなのね〜」 「ああ。ここ<プレアデス>の管理者は俺の獲物だ。邪魔するなよ」 「は〜いっ」 黄坂が手を挙げて答えた。 その能天気さに多少の眩暈を覚えながら焔護は続けた。 「…以前、中央の<ディスク>、盗まれたって事件っての、あっただろ?」 「例の次元生成の…たしか<オフィウクス>(蛇使い座)のディスクの事か?」 「それだ。本来能力を持たない人間が独立次元界なんぞ作れん。おそらくは――」 「ディスクを盗んだ犯人が使ってる可能性があるってわけね〜」 「それしか考えられん」 黄坂のその言葉に焔護がうなずく。 焔護のように、<世界>を管理する為には<世界>を作り出す<ディスク>が必要なのだ! たとえば、焔護地聖は<アクエリアスゲート>を作り出す為に、<アクエリアスのディスク>を使用した。 <次元移動組織プレアデス>の<世界>も、盗まれた<オフィウクスのディスク>で 作り出された可能性があるのだ!!ああ、分かりにくい。 「で、ついでにここには結構な人間が呪印によって囚われている。 お前たちは片っ端から解呪して救護艇に乗せてここから離脱させてくれ。…首謀者は俺が斃す」 「いいだろう。本来我々の受けた使命はプレアデスに囚われた者の保護だ」 「だから、ボス退治は焔ちゃんにお任せするわ。後はまかせてちょーだい」 黄坂が胸を叩いた。そして、咳き込んだ。その横で周囲を伺っていた白峰が顔を上げる。 「…周囲にウイルス反応あり。こちらに向かってきています」 白峰の言葉通り、各通路からウイルスと呼ばれた異形の生物が周囲に集まってきている。 無数の赤い眼が闇の中で閃いた。 「―――ここは任せて、焔護は先にいけ」 「すまんな、黒咲。――頼む」 言い残すと焔護は駆けだした。 |