二十一幕 沙姫・交錯スル運命

■アクエリアスゲート現代―――深夜■


沙姫と呼ばれた女性がゆっくりと近寄る。

「…っ…っ、…っ!?あ、あの…夕霧沙姫さんですか…!?」
「久しぶりだな…」
「えっ?わ、私のこと知っておられるのですか…?」

沙姫の言葉にきょとんとする澪。

「…沙姫、澪は過去の記憶…お前と共に居た頃の記憶はない。
 初対面、と言ったところだ」
「そうか…私のことは覚えてないのか」
「ああ。その時はまだ<呪印>を消滅させる方法しか知らなかったからな。
 まぁ、今でも<呪印>の事はよく分からないままだが…」
「あ、あの、わ、わたしも…
 沙姫さんと一緒に居たの時があるのですかっ?」

沙姫が無言で頷いた。
澪の目は怯えた子犬のように潤んでいる。


「で、でも…、沙姫さん、沙姫さんって…お亡くなりになったと伺っていましたが…!?」
「なに?」

少し呆れ顔で夕霧沙姫が焔護を見た。

「焔護、お前…私のことをどういう説明したんだ?」
「話すことでもない、と思っていたしな…
 まあ、まだちゃんと生きている訳でも無いし…いいんじゃないか?」
「ち、ちゃんと生きてないって、どういうことですかっ?
 焔護さんっ…焔護さんが夕霧さんを殺したと仰ったのは嘘だったのですか?」
「いや、確かにこいつは俺が殺したような<もの>だ」

目を丸くする澪。

「…どういう意味…ですか?」
「……長い話になるからな―――…」

少し考えた後、焔護が呟く。

「…あっ、水姫さんも起こしてきますっ!!」
「その必要はない」

即答する焔護に澪は驚いた。

「え…?どうして…?水姫さんには内緒にしておくのですか?」
「―――水姫は、ここにいるからだ」

焔護が沙姫の方を見る。

「ええっ!!あううう、あうううううう?ど、どういう…!?」

頭を抱える澪。
歩み寄った沙姫がそっと澪の髪を撫ぜた。

「えっ、えっ…水姫さん…?沙姫さん…?さ…ぁぅっ…?」
「ちゃんと説明してやらんとわからんぞ、焔護。混乱しているじゃないか。
 …話してやれ。私は構わない」
「そうだな―――いずれ知ることだしな」