「―――こんな街中で…まったく節操無いわね」
「――っ!」

暗闇に流れる黄色い髪―――年のころは20代半ばの、女性が立っていた。
凛とした雰囲気というよりは冷徹な雰囲気を醸し出す女性。
放出される霊気がまるで紫電のように暗闇に迸る。


「シャーーーッ!!!!!」
「―――あ、危ないっ!」

思い出したかのように、咲に腕を吹っ飛ばされたゾンビが―――
ターゲットを咲からその黄色い髪の女性に変更し、襲い掛かった。
それをこともなげに裏拳で地面に叩きつける黄色い髪の女性。

「ギャピッ!」

まるで―――、上空から硬い地面に叩きつけられたかのように、
べしゃりと飛び散る体。
高いビルから落とされたトマトが地面に衝突したように、ぐちゃぐちゃだ。

「な―――…!」

言葉が出ない。ただの裏拳でここまで相手にダメージを与えることが
出来るのだろうか。何の術も使った様子もない。
なのに―――、<それ>が激突した地面はまるでクレーターのようにへこんでいる。

「ギ、ギギ」
「消えなさい」

黄色い髪の女性が口を開くのと同時に<ソレ>が爆散した。
<そんなもの>はもともと無かったかのごとく、霧散していく―――。

(なんて…強烈な霊圧…!それを一点に叩きつけたという事ですか)
「―――まだ塵が残ってるようね…。あなたは下がっておいたほうがいいわ。」

咲が言葉を発するより早く、―――疾駆する。それと同じタイミングで
周囲にあった異様な気配が奇声を発しながら一斉にその女性に襲い掛かった。

黄色い長髪が踊るたびに、死人のような異形のモノが砕け散る。
圧倒的な力の差だ。相手を引きちぎるような残忍な戦闘。

(…どうやら―――拳が当たる瞬間にとてつもない量の霊気を
 放射しているようですね…。
 あの怪力は<氣>をコントロールすることによって…ですか。)

戦闘―――というには一方的な戦いだ。

「―――これで終わりよ」

最後に残った死人の首を掴んで、持ち上げる。その瞳には何の感情も
持ち合わせていない―――冷酷な瞳。
そして、そのまま―――<ソレ>が爆ぜた。

「ふん…つまらないわね」

手に残った―――首の一部と思しきものを、興味なさげに
ぽいっ、と捨てた。小さな音を立てて、それも砕け散る。
圧倒的な力を見せられあっけに取られていた咲だったが―――、
我に返ったように、黄色い髪の女性に駆け寄った。

「あ―――、ありがとうございます」
「気にする事は無いわ。―――見た所あなたも人間ではなさそうだし。
 まぁ…滅する気は無いけど」
「―――ッ。」

正気な所、咲は驚愕していた。死人が現れて襲われた事より、
この圧倒的な<力>を持つ人間に。そして、自分の正体を看破された事に。

「あの、お名前は?」
「そんなコト聞いてどうするの?」

なんの感慨も持たない、そっけない返事。
―――だが、咲もその程度では挫けない。伊達に永い間生きていない。

「いえ―――命の恩人のお名前も知らないようじゃ―――、
 私が主<あるじ>に叱られます」

にっこりと微笑む咲を見て、興味なさそうに「そう」と呟く黄色い髪の女性。
主<あるじ>って何なのか、とか全然思わないようだ。
暫くして、その口を開いた。

「私の名は、黄坂」




「黄坂―――冥」