封印の間。

―――封印と銘打つと仰々しいが―――ようは、臭い物に蓋をしている部屋。
だからといって生ごみとかが置いてある訳ではない。
アクエリアスゲートの防衛機能によって<中央世界>に入り込もうとする
<異物>をここに送り込んでいる。アクエリアスゲート次元内に存在する
部屋だが、次元階層が異なる為、厳密に言うと、アクエリアスゲートではない。
地下エリアスゲート。(正式名称ではない)
そこに送り込まれた異物―――即ち悪意は現世に具現化する。
<異形のモノ>に。
その―――グロテスクな外観を持った異形のモノ達に焔護と沙姫は対峙していた。
なんというか…形容し難いモノ。
赤黒くぬめり気のある光沢に彩られた外殻をもった昆虫のような、
それでいて哺乳類のような、体長1〜2mから3mはありそうな
嫌悪感を抱かせる外観のモノ達。明らかに、沙姫達に対して敵意を向けている。
「ま、始めはこんなものだろ」
囲まれているというのにのんびりした焔護の口調。これだけの数を見ても
まるで動揺する素振りを見せない。沙姫は少し口の端を上げた。
背を護られているということは―――なんと心強い事か。
いや、背だけではなく、この男は全身預けても尚、お釣がもらえそうなくらい心強い。
「それじゃいくぞ。」
やっぱりのんびりした焔護の掛け声。それと同時に―――沙姫は飛んだ。
奇声を上げながら襲い掛かる異形の群れ。
「―――はぁぁッ!!!」
焔護の―――いや、この場合は久遠といったほうがいいか―――妹、御剣紫苑から
託された霊刀「月光」を握り、眼前の異形のモノを唐竹に斬り飛ばす。
そのまま体を回転させながら真横一文字に刀を薙いだ。
清冽な<氣>の波動が異形の群れを霧散させていく。
「お、すごいな、沙姫。」
焔護の声が耳に入る。
―――ちゃんと見てくれている。それだけで、<力>が湧いてくる。
―――私を気に掛けてくれている。それだけで、<力>が湧いてくる。
―――私と共に戦ってくれる。それだけで―――<力>が湧いてくる!
踏み込んで袈裟懸けに斬りつけ、その足を軸に右回転に横なぎでぐるりと刃を
走らせた。周囲の異形のモノが次々に赤い靄になって消えていく。
バックステップで一旦間合いを取り、構える沙姫。
刀を持つ手に<氣>を集中させ、<雷氣>に変換、刀を体の延長と
見做して―――、気を通す。
刀身から火花が散るように―――帯電する。
収斂収束された<氣>が刀身を白く染め上げていく。
それを大きく振りかぶって――――思いっきり振り下ろす!
「紫電一閃・雷光剣!!!」
淡い青に光り輝く一閃が眼前の異形の群れを光の粒子に変換させながら
ぶっ飛ばす。眼前に群れる半数以上の異形のものが一瞬にして浄化消滅した。
例えるなら―――いや、ルビを振るなら、これが的確だろう。<X力river>
「まるでレーザー砲だな。…レーザー砲なんて見たことないけど」
「―――ふぅっ…、こっちはいいから―――お前はそっちを…」
「ん?もうこっちは終わっているぞ」
「な、に!?」
振り返ると、そこには―――もともと何もなかったかの如く、
無機質な天蓋の下、だた白い空間があった。腕を組んでのん気そうに
こちらを眺めている焔護。
「ちょ、ちょっとまて、早すぎるぞ焔護!お前なんかずるしてないか!?」
「なんでわざわざわずるしないといけないんだ。
  ――ほれ、そんな事言っている間に、次が来るぞ。」
顎で沙姫の背後を指す。
「…くっ」
改めて刀を握り締めて―――、一体ずつ撃破していく。
相手はそれほど強大な<陰の氣>を持っているわけではない。
沙姫の霊気を帯びた刀で斬られるだけで霧散していく。
とは言うものの、焔護の目には――沙姫の動きが<重く>見えた。
「うーん。やっぱりさっきの技は多用してはいかんぞ、沙姫。
  お前の<氣>の容量からすると…ずいぶん無理する技だ。<氣>の絶対量を
  増やすのと、技での<氣>の放出量のコントロールが出来ないとな。」
―――痛いところを突かれた。
実際に、エネルギーをごっそり持っていかれる技でもあるし、
放出配分も出来ていない。お陰で、正直体の動きも悪くなっている。
まぁ、焔護がいるからという安心感から―――放ってしまったわけだが。
「ふ、ふん…。わかっている!」
―――ザウッ!
強がりを言いながら、残る最後の敵を斬りつけた。袈裟懸けに剣閃が走り、
そのまま空間に溶けるように霧散していく。
「ま、わかっているならいいけどな。
  ―――結構無駄な動きもしているから…闘い方を教えてやろうか?」
「むぅ…」
確かにこのままでは焔護の足を引っ張ってしまう。
実力的にもそんなに強いほうではないし…。単純な霊気の量としては
白峰より多いが、白峰はより実戦的に<氣>を使えるという。
つまり戦闘においては白峰にも及ばないという事だ。
以前焔護から聞いたことを脳内で反芻させながら、沙姫は素直に頷いた。
「お前が教えてくれるなら―――」
「手取り足取り腰取りじっくりまったりねっとり教えてやるからな」
「なっ、なんだその粘着性のある教え方は!!!
  ―――ば、ばか!どこ触って―――あぁっ、そこは関係ないだ、ろ…!」
余計なところまで触ろうとする焔護の脳天を柄で叩く。
「いてっ!ほんの冗談だろ!」
「お前がやるとどこまで本気か冗談か分からんっ!!」

そんなこんなで、ほむらに続き、沙姫も焔護の弟子になったが―――
沙姫は焔護のことを師匠とは呼ばず、いつまでも呼び捨てであった。

「―――お前、本気で教える気があるのか?」
「当たり前だろ!そーだな、まずは衣装からだ。…んー、レオタード…
  いや、体操服もいいかも。下着着用不可」
「なっ、なんか趣旨が変わってきているぞ!!!!」



おわり。