水姫メイド編

【水姫】ねえねえっ、焔護さんっ。

水姫がノックして部屋に入ってきた。
何かを考えているような水姫の表情に首をかしげる焔護。

【焔護】なんだ、悩み事か?
【水姫】えっとね、焔護さん。
      ボク、清楚で清純なメイドさんになってみたい。

【焔護】―――は?
【水姫】いや、だからさ、完全で瀟洒な従者になりたいんだっ。
【焔護】さっきと変わってるぞ?
     いや、そもそもそんな言葉どこで覚えたんだ…

呆れ顔の焔護。

【澪の声】―――失礼します。

と、丁度その時、澪がコーヒーを持ってきた。

【澪】あ、あの、お邪魔してしまいましたでしょうか…。

難しい顔つきをしている二人の雰囲気に、少し歩みを遅くした。

おずおずと尋ねる澪。

【焔護】いや…。―――水姫。
【水姫】ん?
【焔護】ここにいい手本が居るじゃないか。清楚なメイドが。

二人の視線が澪に向く。

【澪】え、え?な、なんのお話ですか?…せいそ…?
【焔護】まあ、そんなところに立ってないでこっちに来い。
【澪】は、はあ…。
    あ、コーヒーです。お待たせしました。

コト、とコーヒーカップを置く。

【焔護】ん、すまんな。―――で、だ。

水姫のほうを振り返る。

【焔護】水姫、お前がなりたいって言う清楚なメイドはここにいるぞ。
     澪を手本にすればいいんじゃないか?
【水姫】あ、そっか。
【澪】わ、私が、私が清楚ですか?

うろたえる様に焔護と水姫を交互にみる。

【澪】わ、私なんて―――私なんて肉欲に溺れた卑しいメイドですっ!
    そんな、そんな―――清楚だなんて…もったいない…です…!

ぼろぼろ泣き出す澪。その姿を見て、焔護はなんかこー衝撃が走った。
すっごい抱きしめてやりたい衝動。

【焔護】なっ、かわ―――
【水姫】可愛いっ!!澪ちゃーーーんっ!!

焔護より先に水姫が澪に飛びつく。
出鼻をくじかれた焔護は上げた腰を再び椅子に戻した。

【焔護】…に、肉欲…って。
     ま、まあ、そこまで自分を卑下する事はないぞ、澪。
     お前さんはどー見ても清楚で清純派のメイドだ。
【水姫】そうだよー。肉欲レベルで言うと、ボクなんてそりゃもう。
      もー肉欲大魔王だよっ。

胸を張って宣言する水姫。

【焔護】こら!お前も女の子なんだからそんなはしたないことを 
     言うもんじゃない。まーとにかく。話を元に戻すが、
     水姫は水姫らしいのが一番似合ってるぞ?
【澪】わ、私もそうおもいますっ。今のままの水姫さんが大好きですっ。

どさくさにまぎれて水姫の胸に顔を埋めて水姫の匂いと感触を堪能する澪。

【水姫】そーかなー?
【焔護】うーん、それじゃ、見た目だけでもちょっと変えてみるか。
     水姫、少し目を細めてみろ。
【水姫】こ、こう?
【焔護】それじゃあ近眼の目つきだ。
【水姫】こーかな?
【焔護】に、睨むな。…目を細めて睨むと…(あいつに似てしまうだろ)
【水姫】こ、こんな感じ?
【焔護】それだ!その落ち着いた雰囲気を纏わせた目つきだ!

焔護が指をぱちん、と鳴らす。水姫の衣装がメイド服に変わった。

【水姫】あはっ、やったっ!!
【焔護】あ、また目つきが元に戻った。
【水姫】んんっ!!
【澪】あ、水姫さんの衣装…、私の衣装と少し違いますね。
【水姫】んんーーー。
【焔護】ま、後は口調を何とかするくらいだが―――
【水姫】んー!
【焔護】?
【水姫】ぶはあっ、息とめてたら清楚な目ができるんだけど…。
      声出したら元に戻っちゃうよーーー。
【焔護】…駄目だな、これは。
      やっぱり水姫は水姫らしいのが一番だ。
【澪】はい。