□沙姫の部屋□
沙姫は悩んでいた。
アクエリアスゲートではそれぞれ役割がある。
澪は言うまでも無く家事全般を担当しているし、
水姫は心も…そしてその身も…捧げている。いろんな意味で。
そういう意味では澪も…沙姫もだが。

――では私は?
私の役割は一体何なのだ?
外部から進入してきた悪しき意思<陰気>を祓う、といっても
そうそうあることではないし―――、私はアクエリアスゲートで
役に立っているのだろうか?
役に立ちたい。
              ―――あいつの役に立ちたい。

□澪の部屋□
「何を仰っているのですか、沙姫さん。
  杞憂だと思いますよ?沙姫さんは沙姫さんだからいいんですよ」
とりあえず澪にメイドの何たるかを教わりに来た沙姫だったが、
軽やかににこやかに、そして爽やかに一刀両断された。
「よくわからんが…?だが―――しかし、家事の一つも出来ないと
  いけないだろう…?だから教えてくれ、澪」
家事をしたいということが前提にあるので言っている意味が
滅裂気味だが、真摯な沙姫の願いに、頷く澪。
「は、はぁ…沙姫さんがそう仰られるのであれば…」
「それで―――どうすればいい?」
「うーん…そうですね、とりあえずお洋服が汚れてしまうと
  いけないので、着替えましょうか」
「着替える…って、何にだ?」
「えっと、これです」
澪は自分のピラピラした衣装を摘んでにっこり笑った。


□再び沙姫の部屋□
「あの、沙姫さんは――水姫さんとお体のサイズはまったく同じ…
  なんですよね?」
「―――ああ」
まさにその通りで、体のサイズはまったく同じだ。双方とも成長している
にもかかわらず、<形>が同じなのだ。双子以上のリンク性能を誇っている。
「ふふっ、よかった。水姫さんのまだ使ってない
  メイド服があって―――持って来ました」
ふぁさ、と澪のメイド服と同じ衣装が広げられた。
以前水姫が着た時はスカートの丈が長いものだったが、今回は
澪のものと同じミニスカートタイプだ。
もちろんガーターベルト付き。
「これ、か…?」
「これです。さぁ。さぁ―――どうぞ」
なんとなく頬を赤く染めながら、ちょっとキラキラした目で
沙姫を見つめながら、メイド服を手渡す澪。
「なんか嬉しそうに見えるのだが、気のせいか?」
「へっ?え、あ、あの、そんなこと、な、ないですよ!
  別に沙姫さんの裸が見れるから嬉しいとかそんなんじゃなくて、
  あの、あれ?私ったらなにを―――」
突然顔を真っ赤にしてどもりだした澪を怪訝な表情で眺めながら、
沙姫は着ていた衣装を一枚ずつ脱ぎだした。
水姫と同じ肢体が露になる。
違うのは――その白い肌に映え流麗に靡く美しい黒髪だけだ。
「きれい…」
「え?」
下着姿の沙姫に―――いつの間にか密着するように立っている澪。
なんていうか、焦点が定まっていない瞳でゆっくりと
沙姫を眺め―――、呆けたように手を伸ばす。
「あの…触っても…いいですか…?」
「え?」
二度目の沙姫の疑問符を完全に無視し、胸の谷間にそっと指を這わせた。
そのまま指をずず、と谷間の奥へ進めていく。
「ひぅっ?」
ぞくぞくっ、と全身を駆け巡る快感に身を震わせる沙姫。
そんなことはお構い無しに暴走している澪。
「すごい…水姫さんと同じ――シルクのような手触り…。
  宇宙…宇宙が広がっています…水姫さんと同じ―――
  ううん、これは――別次元の宇宙…」
「ちょ―――、み、澪…っ!意味、分か、らん…っ!」
膝の力が抜けるように、その場に崩れる沙姫。
やっぱりこーゆー攻撃にはものすごく弱い。
そして指が谷間から抜けたことによって覚醒する澪。
「―――え?あ!あ!わ、私ったら…!ごめんなさいごめんなさい!!
  ごめんなさぃぃぃぃ…!!」
「…ま、まぁ―――澪だったら…別にかまわんが…」
「あ゛ううー…ありがとうございますぅぅ…」
両人とも顔を赤くしたまま、その場に立ち尽くした。


□アクエリアスゲート  ロビー□
「あれれ?どーしたの沙姫ねーちゃん。メイド服なんて
  着ちゃってさ」
まず掃除から―――ということで、沙姫(メイド服)と澪がロビーに来ると、
水姫がいた。その水姫がまず目がいくのは当然、普段のいでたちとは
違う沙姫だ。フリフリの付きまくった衣装にカチューシャ。
それをしげしげと眺める水姫。ちょっと動悸が激しくなっている。
「かわいい…。おねーちゃんすっごいかわいいよ!
  ちょ、ちょっとボク興奮しちゃった」
テレながら笑う水姫。見ただけで興奮するとはなかなか水姫も
普通じゃないが、確かにもじもじしながらハァハァいっている。
水姫もちょっとした暴走だ。
「と、とりあえず落ち着け、水姫…。意味が分からん」
「だってさー…これ正直たまんないよ、反則だよ」
「その気持ち、私も同じです…反則です、沙姫さん」
「お前たち…何度も言うが意味が分からんぞ。そもそもこの衣装は作業服のような
  ものなんだろう?家事掃除する作業着―――」
沙姫(メイド服)の言葉を遮るように、ガシャン、という音が鳴り響いた。
その音に、全員――水姫、澪、そして沙姫(メイド服)が振り返る。
「あ、焔護さん…っ!」
驚きの表情で現れた焔護。その足元にはコーヒーカップが
二つに割れて転がっている。
慌てて駆け寄って来て、そのコーヒーカップを拾う澪を気遣いながら
ゆっくりとした足取りで―――沙姫(メイド服)と水姫の側に
やってきた。
「お前…その格好…」
「は?あ、いや、これはだな、澪に家事掃除をおしえてもら」
「ちょっと俺の部屋まで来いっ!!」
「ええ!?」
沙姫(メイド服)の驚きをよそに、その腕を掴んで引きずっていった。
ロビーに残された二人。
澪は去っていった焔護の姿を見ておろおろとしている。
「わ、私があんな服を着せたばっかりに…焔護さんを
  怒らせて―――」
「あははっ、大丈夫だよ、澪ちゃん。
  逆にグッジョブ、って褒められるかも」
「???」
「萌えた、ってコトさ」

□焔護の部屋□
ごと、とカメラを机に置いて―――、焔護はベッドに横たわる沙姫を振り返った。
「やっぱりお前は可愛いな」
「ば、ばか…」
着衣の乱れを直しながら―――、
ぐすっ、と半べそをかきながら呟く沙姫(ちょっと乱れたメイド服)。
一方の焔護もなんとなく複雑そうな表情だが、どこか嬉しそうだ。
「何を言う、沙姫。お前こそアレは…いや、ソレは反則だろ。
  今の半泣きの状態でもかなり、こう、なんか反則なんだぞ」
「意味が…分からん…っ!」
上目遣いで毒づく沙姫。
「わからんか?」
沙姫(乱れたメイド服)が半身起こしているベッドに腰掛けて、
側に抱き寄せる。
力なくなすがままに引き寄せられる沙姫(胸元がセクシーに開いてしまったメイド服)。
「いつも以上に可愛いってことだ」
「―――/////!!!」
ぼふっ、と音を立てて撃沈する沙姫。
「しかし何でまたメイド服なんかを着ようと思ったんだ?
  俺はそれが不思議で仕方ないんだが」
ちょっと上目遣いで眉をハの字に歪めて、焔護を見上げた。
その仕草に、また思わず―――なりそうだったが、理性で止める焔護。
「…私は…澪や水姫と違って―――ここに居るだけで、
  役に立っていないからな。何か出来ることがあればと思って
  澪に家事掃除を教わろうと―――」
「阿呆だな」
ぴこっ、と軽く沙姫の額を人差し指ではじいた。
「―――なッ!?お、お前、私は真剣に―――」
反論しかけて言葉を飲み込む。そこには沙姫(メイド服)の瞳を真摯な目で
見つめる焔護の瞳。?
「沙姫は沙姫のままでいい。俺にはそれが一番いい」
「―――っっ…!!」
「多分、水姫も澪も、みんなそう思っている。
  心配することは無い。今のままのお前が―――みんな好きなんだ」

     ―――あぁ…私は―――
       ―――なんて幸せ者なのだろうか――

知らず、沙姫の頬を伝う涙を―――、軽く拭く焔護
「それに、お前が居なかったら――誰が…誰が「ツッコミ役」をやるんだ?」
「は?」


おわり