■中央世界―――管理室■

マスターや黒咲たちが常駐するこの管理室は、
先ほどのほむらがいた桜舞市の隣街―――蒼華市にこっそりある。
この管理室がある建物はこっそりというか隠蔽された空間にあるというか…
とにかくそういった<普通の人には分らない特殊な空間>に存在している。
で、その一室。

「――――っっ!!」

黒咲は渋面で、耳に当てていた携帯電話を勢いよく離した。

「む?どうしたのじゃ、黒咲」
「…いえ、先代…。ほむらが携帯を壊されたようで―――。
 かなり苦戦しているようです」

携帯電話をスーツのうちポケットにしまいながら―――
先代と呼んだ着物の女性―――青瀬静奈<あおせしずな>の方へ振り向いた。
―――この女性も<青龍>の魂魄の加護を持つ。
その青瀬は、持っていた番茶の入った湯飲みをゆっくり置いて優雅に微笑んだ。

「ふっ、ほむらの事じゃ、大方―――思わず<けいたいでんわ>を
 持った手で敵を殴ったのじゃろう。」
「…そうで…しょうか…?」

その通りだったりする。

「だといいのですが。…いや、よくないか。
 ―――また熱くなってしまっているということですね」

その通りだったりする。

「ははっ、お主は心配性じゃな。あ奴は―――まだお役目を継いで
 日が浅いとはいえ、なかなかの資質の持ち主じゃ。
 そんなに心配する事は無かろうて。」
「まぁ、そうですね―――。焔護の弟子ですし。」
「うむ―――。」

静かに唸る青瀬。焔護の弟子がどうたらという内容の事より、
今焔護達に起こっている事態について考え…―――表情が険しくなる。

―――と、カチャリとドアが開いて、黄坂と白峰が
息を切らせながら部屋の中に入ってきた。

「いやー、もーたーいへんっ。」
「こんにちわ、綾お姉さま、先代様。お元気そうで何よりです。」
「うむ、久しいな、二人とも。」

ばたばたと入ってきた黄坂と、その後について部屋に入り、静かにドアを閉める白峰。
黄坂はそのままソファーにぐたーと寝そべった。

「白峰、舞さん。急に呼び出してすまなかったな。」
「ううん、分ってるわよ、綾ちゃん。
 この異常な霊圧と―――マスターの陰陽院発令。事態はだたゴトじゃないわ。」

珍しくまともな事を言う黄坂。
むくっ、と起き上がり、湯飲みの急須からお茶を淹れてぐい、と飲んだ。

「―――うわっち!?」
「ああ、先ほど入れたばかりじゃから熱いぞ?」
「も、もー、先に言ってよぉ!!舌やけどしちゃったじゃないのよ、お静<しず>さんっ!」

そんな事よりも、と白峰が冷たく話をきった。
黄坂も舌を外気に曝しながら立ち上がり、白峰に続いて黒咲のほうを向いた。

「さっひも、いーはいのへひさんふぁいふぇふぇ」
「先ほど、ここへ来る途中にかなりの異形のモノを屠りました。
 これだけの<陰気>が直接この中央世界に入り込むとは考えられません。
…一体何があったのですか?」
「ほーほれふぁいいふぁふぁっふぁのよ」

黄坂の言葉を通訳しているのかいないのか―――黄坂の
言いたかった事を白峰が代弁する。
二人が疲弊していたのは、道中異形のモノを祓いながらここへ来た為だった。


「ああ、―――ほむらが来てから説明しようと思っていたが…。」

                                         つづく。