【ほむら】はァ!?何言ってんだテメェ!
【マスター】ごぶーー!!!

またしてもほむらの鉄拳制裁により、マスターは地に沈んだ。
その横で、優雅に茶を啜る青瀬。

【青瀬】…五封結界…じゃな。
【白峰】―――っ。

驚きの表情を見せる白峰。
それとは反対に、黒咲が静謐な表情のまま頷く。

【黒咲】ええ、先代。五封結界を以って<中央世界>を護ります。
【黄坂】んー。止む終えないわねえ。この状況じゃ。

案外黄坂も楽観とした返事をしているが―――ついていってないのが
ほむらだ。きょろきょろと周りを見回す。

【ほむら】え?何だよ皆して。ゴフウケッカイって何だよ?
     オレ師匠からそんな技教えてもらってないぜッ?
【青瀬】まァ、禁忌技じゃからな。
     簡単に言えば―――儂等の持つ魂魄の加護を強制解放して放つ強化結界じゃな。
【ほむら】強制解放…って?
【白峰】文字通りの意味です、あかおねえさま。
     <魂魄の加護>を無理矢理引き剥がすのです。

それでも、ほむらは全身から「は?」というオーラを出しまくっている。
珍しく、黄坂が補足説明に回った。

【黄坂】無理矢理引き剥がした<魂魄の加護>は純粋な<氣>のエネルギーなの。
     それを相生相克の循環を以って数幾倍のエネルギーに変化して結界化するのよ。
【ほむら】うわ、舞姉が真面目な台詞言った!なんか似合わねェな。
【黄坂】こーら!茶化さないの。ここからが肝心なんだから。
     ほむらちゃんがマスター殴って気絶させたから大事な事をいえないまま
     屍になっちゃってるのよ?

死んではいないが。

【ほむら】そ、そりゃ悪いと思うけどよ、マスターの言い方が意味不明だからよォ。
     ンで、一体何が重要な事なんだ?
【黒咲】能力を別の人間に継がせる場合は大丈夫なのだが―――、
     魂魄の加護を強制的に引き剥がすと宿主は、死ぬ。
【ほむら】宿主…って、オレ達のことかよ…?
【白峰】はい。ただ、いきなり生命活動が停止してしまう訳ではありません。
     <氣>を使った戦闘を行うと、<氣>の枯渇により死に至る、と言うことです。
【黄坂】その使用限界は約三回。大体…だけどね。
     私たちは魂魄の加護により、普通の人間以上の<氣>を操れるでしょ?
     <氣>を使いすぎでも普通の人より回復が早い。
【ほむら】ああ、そりゃわかるけどよ。でもなんで死んじまうことになるんだ?
     よく分からねェぜ。
【黄坂】そうねえ…どういう説明したら良いかしら?
     例えば――、お茶碗に水が入ってる、って考えてみて?
【ほむら】何だか家庭教師みたいだな。
     その茶碗が許容できる<氣>の器で…水が<氣>ってことか?
【黄坂】ふふっ。そのとーり。良く出来ました。
     氣を使う、ってのは、お茶碗の底に穴があいてる訳ね。
     そこからちょろちょろ水が流れていくの。
     その穴が私たちは大きいのよ。あっという間に、水が無くなっちゃうくらい。
     …その代わり<異形のモノ>と戦えるんだけどね。
【黒咲】そうだな。普通の人間も――ある程度は時間の経過と共に
     自己回復できるのだが…私たちは戦闘を行うと―― 
     それでは追いつかないくらい<氣>を使う。
【黄坂】<魂魄の加護>は自然界から<氣>を私たちに供給してくれる。
    これは、言わば供給源が二つ在るような物なの。
【ほむら】ああ。それは何となく分かるぜ。師匠にも教えてもらったからよ。
      でも―――なんで強制的に引き剥がして三回戦ったら死ぬ事になるんだよ?
【白峰】お茶碗の底にあいた穴が大きいままだからです。
     一度の戦闘において、全生命エネルギーの1/3程度の<氣>を
     放出してしまう事になるのです。そして、それを急速に回復する手段がない。
     即ち―――3回戦ったら<氣>が枯渇する、ということです。
【青瀬】<氣>とは―――生命のエネルギーじゃ。無くなれば戦闘はおろか、
    生命活動も停止してしまうということじゃよ。
【ほむら】ふーン。そういう事か。なんで1/3って決まってるのかわかンねェけどな―――。
     ちゃんと説明しろよな、お前。

転がっているマスターに、ごす、と蹴りを入れる。
マスターが小さく唸って目を覚ました。よろよろ…と立ち上がる。

【マスター】そういうことだから。
【ほむら】会話の内容分ってンのかよ…。いつもながら良くわかんねェ奴だな。
【マスター】そこがいいところ。
【黒咲】自分で言うな。―――で、最終的には五封結界を張ることに
     なるというのは分ったが―――。
【マスター】うん、五封結界も準備に時間がかかるからね。
      それはこっちでやっておくから、それまでに―――降りてくる<異形のモノ>の封滅を。
【黒咲】了解した。
【ほむら】なぁ、五封結界は分ったんだけどよ…。
       オレたち、それ使ったら…実質的に戦えなくなるんだよな。
【黄坂】そうねえ。戦ったら死んじゃうもんね。
【ほむら】それじゃその後の―――封滅はどーすんだ?
【マスター】うーん、陰陽院発令で戦闘員の中にそれなりの手錬はいるけど…。
      あと、他に数人…一応目はつけてるんだけどね。
【黒咲】…誰だ?私たちが知っている者か?
【マスター】まぁ、知っているといえば知ってるし知らないといえば知らない。
【ほむら】どっちだよッ!!
【マスター】ほむらちゃんと静奈さんはあの二人の事よーく知ってるけどね。
【青瀬】…御剣と桐生か…?
【ほむら】―――紫苑と刹那のことかよ?やってくれんのかねえ?
【黒咲】紫苑…?御剣紫苑のことか?焔護の妹の…!!
【白峰】桐生…とは、お師様の―――。
【青瀬】うむ、焔護の妹、御剣紫苑と―――白峰、お主の師である
     桐生玄冬斎の孫娘、桐生刹那のことじゃ。
【ほむら】あいつら無茶苦茶強ェからな。正直生身でよくあそこまでやると思うぜ…。
【黄坂】あら、ほむらちゃん。御剣家も桐生家も特殊な力をもってるわよ?
     御剣家は退魔封神の剣技を代々継いで―――しかも
     神刀・天照と月読をもつとんでもない家柄だし―――
     桐生家は鬼流<きりゅう>、すなわち鬼の血を引く家系よ。
【黒咲】ほむらは見た事ないだろうが―――白峰の前任、幻冬斎どのの
     変身した姿を何度か見た事あるぞ。
【ほむら】変身…って…、すげェな、そりゃ。刹那も変身すんのか?
【黒咲】ああ、いや―――ほむらが思っているような変身ではないぞ。
    <強化>といった方がいいかもしれないな。白虎の魂魄顕現と鬼流の能力を
    開放した時の幻冬斎は…まさに鬼のような強さだった。天地天中陣…といったかな。

遠い目をして呟く黒咲。その強さに憧れを持っていたのは事実だ。

【マスター】そういえば…以前ほむらちゃんは刹那ちゃんと一戦
      やらかしたことがあったねえ。こっちからけしかけて。
【白峰】そうなのですか?あかおねえさまは何処でも無茶なことをなさいますね…。
    やっぱり相手が強そうだったからですか?
【ほむら】ま、まあいいじゃねェか、その話はよ。
【青瀬】そうじゃな。さしあたっての問題は―――、
     五封結界で<中央世界>の護りが大丈夫かということじゃな、マスター。
【マスター】うーん…そーだね、ゲート2つ分くらいの結界にはなると
      思うんだけどねえ。
【黄坂】ええー!?私たち五人で頑張ってもゲート二つ分にしかならないの〜?
     なーんかがっかりねえ。
【マスター】そう悲観することはないよ。管理者クラスの人たちは
      <ゲート管理>に特化した人が多いからね。
      まぁ…焔護くんや御琴さんのように両道が出来てる人もいるけど…。
【黒咲】御琴さん…か。御琴さんも―――行方が分からないんだったな。
    ―――無事だといいが…。あ、いや、他の者たちも無事であって欲しいが…。
【青瀬】そうじゃな。…一体何が起こっているのやら―――。
    あちらは焔護に任せるよりほかはなかろうて。
    儂等は儂等の出来ることをせねばなるまい。
【白峰】そうですね―――。
【黒咲】では―――マスターの準備が出来るまでそれぞれオペレーションの
     指示を受けながら封滅に行ってくれ。
     マスター、その準備とやら、いつくらいに出来そうだ?
【マスター】2,3日中には。
【黒咲】分かった。それでは―――みんな、行こう。