第零話 序章
――Prologue――



闇が在った。

その闇は不可視の光の粒子に飲み込まれ消滅することなく、在った。
闇は拡散することなく、収束し始めていた。
闇の意志たる力。
――怒り。
――憎しみ。
負の感情。
漆黒たる怨嗟の炎は、その猛りに呼応して「個」を保った。
いや。
磁石のように他の<負のエネルギー>を取り込み元来の
「個」を超越した。

もはやヒトたる感情を一切排したその穢れともいうべき純然たる闇の波動は
粒子の流れに乗りながら世界を巡った。

闇は同じ波動を持つ者を捜し求めた。

急ぐ必要はない―――。
<力>を得ること。まずそれが先決だ。



だが、案外早くその資質たる者を探し出した。
闇の波動。
邪悪な波動。
その片鱗を持つものを見つけた。


「待っていた」

闇はその者を飲み込んだ。
…程なく、その者の唇が弧を描いた。




そして、物語は始まる―――
 
                                                            
     Watery saga episode5-水月譚-